ある程度、彫刻家という渡世人家業をやっておりますと、
自分の芸が、知らず知らずのうちに出来上がってまいります。
なんか、『売れそうなモノ』が出来ちゃうのです。
そして『売れそうなモノ』は、まったく売れません。
そうすると、家で迫害を受ける事になります。
ましてや、作っていて全く面白くありません。
つまらなくって、ボンヤリしちゃいます。
自宅で万引きしているようなモノでスリルが無いのです。
ですから、
たまに、わざと凄い不味い事をしてみます。
『芸』の風通しを良くするためです。
新しいマリオネットのために、高価な木を使って木取りしました。
そこに、渾身の大暴投デッサンを描き込みます。↓

我ながら、「不味い事になった…。」と思いました。
変態のおじさん、
つまり「変なおじさん」のマリオネットになってしまいました。
しかし、そう簡単に反省してはいけません。
ここが、落とし穴です。

真面目になることで、人を感動させるわけにはいきません。
真面目な人が生活を賭けて一生懸命やればやるほど、
不幸にして作品はつまらなくなるのです。
とは、言うものの
もの凄い不快な顔を、何とかしなければなりません。
夢中で彫り進めました。
ここで、僕は、まんまと楽しくて仕方がなくなるワケです。
とりあえず、変態度を高めていた猫耳を消して、目を描き入れてみました。
ためしに、ちょび髭も描き入れます。

眉毛やシワも描いてみます。

身体も少し彫っていって、様子をみてみます。

ふてぶてしい佇まいで、なかなか良い感じです。

手足のフォルムをもう少しつめていきます。
デッサンしては彫り、デッサンしては彫りの繰り返しです。

横にある木の塊に、ヒョイと首だけのせてみました。

「ほれ、舟越桂。」
と、妻に見せました。
満面の笑みをたたえながら、
「よしな!よしな!」
と、言ってきます。
世界的な彫刻家である舟越桂先生の作品に、『午後にはガンター・グローブにいる』
というタイトルの作品があります。
先生の作品は、詩的で長いタイトルというのがひとつの特徴です。
これは是非、僕もやってみたい。
ですから、僕の作品のタイトルはこうです。
『午後には元旦暴走、野球のグローブを買う』

そんなこんなで、
全体の感じが見えてきました。
タイトルが『午後には元旦暴走~』では長すぎるので、『コウモリちゃん』とします。

コウモリちゃんの化身という事です。
今回は、長靴をはかせることにします。

座らせてみても、いい感じです。

しかし、何か、もう一押し足りない気がしてきました。

ちょっと離れて観察し、考えてみます。

最初はこんな風でした。

写真だと、ただの木の塊から、あっという間に出来上がりますが、
実際は、ゆっくりゆっくり地味に進んでいきます。
ノミとハンマーで形を出していきます。
まずは、荒彫りの様子から。↓
次は、細部の彫りの様子です。↓
ところで、
色々考えながら観察すると、首の空間が間延びしているように見えたので、首輪をつけました。

なにか襟のようにも見えますし、おかげで全体が締まった感じがします。


腕をつけ、自立させて様子を見ます。


「こっち見んな。」

手をどうするか悩みます。

手袋をはめているようにするか?素手にするか?

作品の真ん中には『おちんちん』という準主役がいます。

そのワキに『素手』があったほうがより、見ごたえがあるのでは?と考えました。

いつも思うのですが、
マリオネットを立たせると不思議な気配を感じます。

彫刻とは別の魔力がマリオネットにはあるようです。

ここでいったん中入りです。
コウモリちゃんを二匹彫りましたので、その制作工程を。
まずは、荒彫りの様子から。↓
荒彫りが済んで、だいたいの形が出来上がりました。


細部を整えていきます。


だいたい出来ました。あとは顔だけ。

彫りが終了です。後ろからコウモリちゃんが、じとーっと見ています。

着色に入ります。
まず全体に薄く白を塗ります。

身体を黒くして、

金色を重ねます。

頭巾を赤く塗ります。

全体の色彩に変化をつけて深みを出します。

後ろ姿はこんな感じ。コウモリちゃんの一番の見どころです。

「おー、お前ら。出来たのか―。」
「はい!おかげ様で!」

サインはお尻に入ってます。

鑿跡を際立たせる細工をします。

また一段と深みが出ました。

最後に蜜ロウで磨いて光らせます。

完成です!

さっきから後ろで、チョイチョイうるさいので一緒に記念撮影。

お腹はいつもより余計に出しております。

そして、ご存じちくわ一門との記念撮影です。

今回のコウモリちゃんも可愛く仕上がって気に入っています。
二匹はそれぞれの嫁ぎ先へ、元気にはばたいていきました。
ところで、
こんなのも同時に彫ってます。
ハシビロコウという鳥です。

以前、僕が作った『馬と少年』の少年を修復中、
ふと、ハシビロコウを隣に置いて見たら凄く良かったので、写真をパチリ。↓

コウモリちゃんも手伝ってくれます。
やはり、手袋をはずしてあげないとやりにくいみたいです。顔がそう言っています。

そんなこんなで、
コウモリちゃんが、手袋をはめているようにするのは止めて、素手にしました。

次にコウモリちゃんの顔を彫っていきます。
向かって右の眼は彫ってます。左の眼はまだです。

両方の眼を彫りました。しわも作ってだいぶ表情が変わってきました。

さらに細かく彫って、お化粧して様子を見ます。

最初に比べて、まるで別人のようです。
ムスッとしている中にも、可愛らしさがホンノリ薫っているように感じます。
どうなる事かと思いましたが大成功です。
ここから、さらにさらに彫り倒していきますが、続きはまた次回に。
どんな『コウモリちゃん』になるか?
お楽しみに!

今日も来てくれてありがとうございました。
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- 2012/03/13(火) 10:59:01|
- マリオネット
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