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シド工日記 (しどこうにっき)

仏師の流れをくむ彫刻一家にたまたま生まれ、私自身は5代目の彫刻家です。田島享央己(たじま たかおき)と申します。美術界の「フチ」にかろうじて手をかけている者ですので、どうかご存知のない方はこれを機会に覚えていただけると嬉しいです。

田島家の彫刻家三代噺

 右端の白衣姿の人が、僕の祖父、彫刻家の田島亀彦です。





画像 001

その隣、台にあぐらをかいている人が…。






粘土で作った彫刻です。





















僕が御幼少の折、初めてこの写真を見たとき、





ビックリしてすわりしょんべんして馬鹿になってしまいました。










それからずっと馬鹿です。














 僕のおじいちゃん、田島亀彦は、


明治22年6月28日、熊本県八代市日奈久町に、仏師田島慶三郎の三男として生まれました。

僕のひいおじいちゃんも彫刻をやっていたのです。


慶三郎の父、つまり僕のひいひいおじいちゃんも、

どうやら仏師だったらしく、


それから数えると僕が5代目になります。





 亀彦おじいちゃんは、幼い頃からノミを持たされて木彫の手ほどきを受けていたそうです。

17歳の時、京都に出て小仏師並川新次郎、大仏師田村正運に師事。

3年間みっちり伝統的木彫の技を研究しました。




 20歳で召集され、軍務についた後、明治45年、東京美術学校(現東京芸術大学)彫刻科木彫部を受験。

その実力を認められ、いきなり3年次に編入されます。


卒業後は、彫刻家の朝倉文夫に師事し、朝倉彫塑塾の幹部として後進の指導にあたった。

大正11年、第4回帝展で初入選、以後、昭和2年の第8回帝展まで連続入選を果たした。


しかし、昭和3年以後、突然と中央への出品を止めた。その理由は明らかではないが、

帝展側と朝倉彫塑塾とのゴタゴタや、彫刻に対する考え方の相違が原因であったと言われている。



昭和19年、戦火を避けて活動の拠点を熊本に移し、制作のかたわら後進の指導にあたって行く。




昭和57年、9月16日熊本市で死去。93歳でした。















おじいちゃんの作品です。第5回朝倉彫塑塾彫塑展覧会と書いてあります。









画像 005


コレも朝倉彫塑塾彫塑展覧会の出品作です。

画像


徹底した写実による肖像彫刻は、もの凄い緊迫感があり、

「どうもすみません。」としか言えません。


画像 004


「対象を忠実に見極め、切れば血の吹き出すようなものを作れ。」と言っていたそうです。

まさしくその通り、切れば血を出して文句を言ってきそうです。


画像 002





右端がおじいちゃんです。石膏取りの珍しい写真。粘土をかき出している最中ですね。

良く見ると裸足です。お弟子さんも靴下だけ。師匠の朝倉文夫の教えでしょう。

朝倉文夫はアトリエの床をピカピカに雑巾がけをして、裸足で制作したそうです。

画像 003



安達謙蔵像、昭和15年熊本市蔵

作品17

やさしい、自然主義的な造型です。この方の人柄もわかるようです。














一番最初の写真に写っていた彫刻です。ブロンズになって熊本市島崎町の三賢堂に安置されています。


作品16

菊池武時公 昭和11年熊本市蔵




 菊池武時は、護良親王の命を受け、

鎌倉幕府九州探題の北条英時を、博多に攻めて討ち死にした武将です。







凛として座し、瞑想を誘うような一種独特な雰囲気をかもし出しています。




傑作です。




































時は流れ…、おじいちゃんの息子、


つまり、彫刻家である僕の父、

田島義朗も、何の因果か菊池武時を作っています。粘土の状態です。↓






























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熊本県菊池市にある、菊池神社に設置されています。


菊池武時p7














父は、おじいちゃんの菊池武時の制作時を間近でみているはずですから、注文が来たとき

奮い立ったはずです。



「さぁ、こい。やってやる!」と思ったはずです。























僕は、コレを父が作っていた時の事はちゃんと覚えています。

ずいぶん小さい時でしたので、よく分からないのですが、

もの凄い迫力に、ビックリしてすわりしょんべんしてバカになってしまいました。



























バカの重ね塗りです。








































時は流れ…。










僕もやることが無いので彫刻家になり、騎馬像を作ることになります。





















注文は来ませんから、勝手に奮い立ちます。














「さぁ、やってやる!これが俺の菊池武時だ!」と作ったのがコレです。↓




































































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凛とした裸で馬に乗り、瞑想を誘うような一種独特な雰囲気を醸し出しています。



傑作です。











































これを彫るのに使った道具はおじいちゃんのノミです。


おじいちゃんは、木彫もべらぼうに上手かったのです。





画像 012

伝説中の伝説。不世出の天才。刃物鍛冶の名人。千代鶴是秀のノミ。


「今、千代鶴を実際に使っちゃっているのは、日本で田島くんだけだよ!」


と、ある彫刻家の先輩に言われました。




すわりしょんべんを2回も経験してバカになってしまっていますので、これからも使いまくっていきます。









RIMG0011馬少




「これが菊池武時かい?しょうがねぇ孫だな。」と、あの世で苦笑いしているかな?






































僕が彫った、この作品。『もう角はいらない』です。


(詳しくは、シド工日記2011年5月の記事「田島家の三世代の彫刻家」を御覧下さい。)


鬼1


この鬼を、あるコンペに出品しました。


父も一緒に作品を出品しました。



親子で勝負です。




去年も一緒に出して、父は受賞、僕は入選。










今年こそ、と思いこの鬼を出品しましたが、


全く同じ結果でした。



父は2年連続、実行委員会特別賞を受賞。







父の作品です。↓























画像 006



一木で彫り出しています。「信号待ち」というタイトルです。

お酒を呑みながら、よちよち彫っていました。


画像 010





うちの父の芸というのは、一言でなんだっていうと、なにかの魔力をもった人です。




妙な調子でおかしいとか、そういうのじゃないのです。





上手いだろうとか、おかしいだろうとか言うような、そういうのとは別の所です。

「あの人は上手いねぇ」とか「ああいうところが上手い」とか感じさせているうちは、

ホントの意味では、まだ上手いんじゃないんで、もう全然そんな事を感じません。

これも良いですが、60年代~70年代の仕事が全盛期です。





























父は酔っ払って仕事しているし、僕は千代鶴是秀のノミでちくわを彫っていたり。




















おじいちゃんは、


  「しょうがねぇ息子と孫だな。」




と、あの世で苦笑していることでしょう。









































そんな、出来損ないの孫の近況です。



材を切り出して、新作を彫っていきます。

新作 002






1つは、マリオネットを作ります。

今回も、行き当たりばったりの出たとこ勝負でやります。

僕もどんなのが出来るかわかりません。





新作 003



あと、いくつか同時に彫っていきます。


新作 004









なんとなく、さみしいので材を付け足しました。






新作 005



髪の毛か、角か、何だかわからないですが、トンマな表情が出せそうです。



新作 006


















同時に制作している作品。


来年の年賀状に使うため、龍を彫っています。





龍は見たことないので、これが写実の限界です。


右の作品は、火星人です。

新作 007


火星人も、見たことがありません。


ですから、これが僕の写実の限界です。




妻にタコと言われましたが、僕は烈火の如く怒りました。

これは、火星人です。



新作 008



左の作品は、火星人の乗り物、UFOです。

UFOの木彫を、千代鶴是秀で彫るときの快感ったらありません。


新作 009



いけないことをしている背徳感は半端じゃありません。


















もの凄い間抜けな龍になってしまいました。


新作 010







妻は笑ってくれましたが、相変わらず心配そうな目で僕を見ます。











新作 011





この猫も同時に作っています。ビックリする猫です。






新作 013



無類の猫好きですので、作りながらニヤついてしまいます。


新作 001











一足先に、火星人とUFOの彫りが終了です。



新作 012


近頃の宇宙人ときたら、みな『グレイ』と呼ばれるタイプなので、まったくピンときませんし

色気も素っ気もありません。







「宇宙人つったら、こうでしょう!?」





と、僕は声を大にして言いたいのです。























このタコは、後で赤く塗って、目をはめ込んで完成です。




それはまた次回に。






































マリオネットの荒彫りをしているところです。













新作 014



完全に、カラ馬鹿の表情に神々しささえ感じます。





新作 015



これは、僕の彫刻『いもむしくん』の化身ということにします。






新作 016


触覚に、いもむしくんの名残が見てとれます。







さらに、彫り進めていきます。

新作 017


アホだけれども、品があるいい顔にしなければなりません。


新作 018


いもむしくんの神様です。いい顔になってきました。

新作 019





今回の制作工程はここまで。












次回を楽しみにしていてください。































最後に、




この間、出来上がったばかりの木彫マリオネットが、

おかげさまで売れました。

11月いっぱいまでは、東京の飯田橋のパペットハウスさんに展示してあります。

よろしければ、御覧になってください。



  1. 2011/11/19(土) 08:15:38|
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