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シド工日記 (しどこうにっき)

仏師の流れをくむ彫刻一家にたまたま生まれ、私自身は5代目の彫刻家です。田島享央己(たじま たかおき)と申します。美術界の「フチ」にかろうじて手をかけている者ですので、どうかご存知のない方はこれを機会に覚えていただけると嬉しいです。

こうもり

 
 





     『こうもり』が気になってしょうがない。














きっかけは、こうです。






僕はキチンとした傘を持って無くて、いつもビニール傘か、折りたたみの汚い傘を使っています。



傘が欲しいなーと、何気なくつぶやいたら、


「あんたは、こうもり傘が良いんじゃない?」




と、妻が言いました。
























こっから僕は、こうもりの事が


気になってしょうが無くなってしまったのです。
















それから僕は、

傘の事なんか忘れて、こうもりの事を図鑑で調べました。




















ボンヤリと、こうもりの事は思い浮かべる事が出来ますが、


実際、身体がどうなっているのかは、やっぱり分からないものです。











写真をまじまじと眺めてみると、これが、めっぽう面白い形をしています。






















僕はもともと、動物が好きで、小さい時から昆虫やら魚やら猫やらを飼っていました。










小学生の時、田んぼの中をプカプカと漂っているカモの親子を見て、どうしても飼いたくなってしまい、

親ガモと大格闘の末、子ガモを捕獲。



その時、持っていた、小さい透明プラスチック製の飼育箱(フタがアミ状で緑のやつ)


に子ガモを入れて持ち帰りました。












透明プラスチックの容器にピッチリおさまった子ガモを見て、

僕は、これはさすがにマズイと思ったので、










少し水を入れてあげました。



もちろん、猛烈に怒られて、親ガモのもとへ返しに行きました。



















そんな動物好きの僕は、


今、こうもりの美しさに心を打たれています。


こうもりの姿を見て、一番先に興味を覚えたのは、獣なのに翼があるその形態でした。

不思議でならないその姿。



















僕はたちまち、木彫でこうもりを作ってみたくなりました。



















 さて、まず、デッサンです。


彫刻家が何かを作りはじめる時は、まずデッサン。










こうもりの持つ魅力、表現しようとする全ての要因を考え、

自分の内部でデッサンしなければ良い作品は生まれません。














僕もデッサンには、なみなみならぬ情熱を傾けます。
































手の内を明かすようで、



本当は見せたくないのですが、特別にお見せしましょう。↓






























































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バッテンしたヤツと、オッケーの差が良く分かると思います。




線の、生き生きした感じが全然違いますね。


































この、とうふくんを作った時に描いたデッサンもお見せします。




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これは、とても苦労した思い出があります。↓


























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なぜなら、すぐ描けてしまうからです。

ですが、あきらめず何べんも描き直している苦悩の跡が生々しく残る画面だと思います。

































おたまじゃくしくんを作った時のデッサンもお見せします。








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これは、全方向からデッサンしています。僕にしては丁寧な仕事です。↓



















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キチンと寸法まで書きとめています。


彫刻家のスケッチブックは、設計図でもあるのです。




























最後に、僕の代表作。ちくわを作った時のデッサンです。



ちくわ肖像






穴の部分のデッサンを、何度も何度も描いています。

とても難しい仕事でした。


































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「ちくわたべたい」などと書いてあるのが見えます。

たぶん、必死にデッサンしている途中、無性に食べたくなったのでしょう。

作家のスケッチブックは、時として日記にもなるのです。



このように、紙の上で研究してから、彫刻家は木に挑むわけです。











































こうもりのデッサンはあれだけではなく、


他に沢山描きましたが、全て気に入らない出来でした。


とてもお見せできる代物ではございません。






















あれがベストなので、このくらいで勘弁してください。


































それでは、

デッサンを元に、夢中で彫ったこうもりをお見せしましょう。






タイトルは、物凄い悩みましたが、











































『こうもりちゃん』です。
















































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実は、動物園に、こうもりをデッサンしに行ったのですが、暗くて見えませんでした。



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特に、頭部の形が見えにくく、形態をつかむ事ができませんでした。


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それならば、ほっかむりをさせて、お茶を濁すしかありません。


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動物園で見たこうもりは、真っ暗の中、ずーっとぶらさがってノソノソしていましたから、

身体だって見えません。

後ろ姿だって、そうやすやすと見せてはくれないのです。


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見えないからって、作らないわけにはいきませんから、出鱈目に作ることになります。


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とにかく、真っ暗ですから、こうもりの色だってわかりません。


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ですから、こうもりと言えば、黄金バットですから、金色に塗ることになるのです。



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では、ほっかむりが、何故、赤?とお思いでしょう。



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好きだからです。



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こうもりは、やはりダークなイメージです。



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ですから、当然、目の下はクマが出来るはずです。



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こうもりは真っ暗闇の住人ですから、「むははははは!」と笑うはずです。


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ですから、当然、こんな顔になるのです。



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完全な理論武装をしてしまいました。



もう誰も、『こうもりちゃん』の悪口は言えないはずです。



































僕の妻でさえも。


























自信満々で、『こうもりちゃん』を見せました。









いつもの僕とは、ちょっと違います。










完璧な理論武装をしています。








膨大な量のデッサンも見せて、ビビらせてやるんです。

































僕は妻の前に行き、




『こうもりちゃん』を手に、





    





   「むははははは!」







と、こうもりちゃんが笑っている感じで言いました。





妻は、片方の口の端だけ少し上の方へあげ、頬を少し痙攣させて、

「フッ」と笑いました。身体は少し震えています。
















よかった!

とっても喜んでくれたみたいです。































































僕は嬉しくなって、また、



  















    「むはははは!!」





と、さっきより大きく笑いました。

















































今日も来てくれてありがとうございます。





























最後にちょっぴりお知らせです。


僕が彫ったこの女性像が、東京の六本木にある、国立新美術館で展示中です。

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新制作展という団体展です。


75th.gif

会期は、

9月14日(水曜日)から26日(月曜日)まで。

10時から18時の間やっています。(入館は17時30分まで)




お近くにお越しの際、ぜひご覧ください。

よろしくお願いいたします。





















最後に、


こうもりちゃんの、かっこいいシルエットです。











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  1. 2011/09/13(火) 18:57:37|
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